ベトナムで初という公式のルアーフィッシングクラブが結成され、 テト前の1月20 日、ホーチミン市内のカフェで発足式が開催され た。「公式の」という断りがわざわざ付いているのは、ホーチミン 市という行政機関に登録されているためだ。これまでにもたぶん 友人たちと集まってルアーを楽しむような私的なグループはあちこ ちであったろうが、公に認められたのは初めてと言う意味。発足 式にも市役所から関連部署の担当者が駆けつけ、お祝いの言葉 を述べた。別に役所に登録されようがされまいがどうでもいいこと だと思う反面、このお堅い国でルアーがひとつの社会活動として 認められたことには、ほんの少し嬉しかったりする。 発足したルアークラブへ加入するには、国籍も性別も年齢も関 係ない。条件はひとつだけ。母体となっている釣りクラブ「HOI QUAN BAN CAU (釣り友会館)」へ参加していることだけだ。こ ちらのほうも入会金や年会費はなく、簡単な登録を行うだけで済 む。現在、「釣り友会館」のメンバーは3000 人ほどいるらしいが、 そのうちルアークラブにも登録しているのは現状で50 人ほど。し かし実際にはルアー釣りを楽しんでいるのは100人を軽く越える。 ほんの2年前にはルアー釣りをするメンバーは20 人にも満たな かったという。ほとんどは海外での生活経験があるベテランアン グラーたちだ。しかしここ数年で急速に増えたルアーファンは若者 が中心。その大きなきっかけになったのが昨年初めにベトナムで 解禁されたフェイスブックらしい。どちらかというとあまり釣れない 釣り、道具も高価で金持ちの道楽というイメージが強かったルア ーだが、いろいろな場所で様々なルアーを試した先駆的な釣り人 の成果がネット上にアップされると、好奇心の強い若い釣り人が 次々にそれに続いた。さらにその釣果を見た釣り人が後に続 き・・・、ということでベトナムのルアー人口は今も急速に増殖を 続けているようだ。 会長のレ・ドゥック・フイさん(31 歳) に話を聞いてみた。現在、 メンバー間でルアー対象魚として人気のある魚を聞くと、「釣ってみ たい憧れの魚はバラマンディだが、実際に良く釣りに行くのは「雷 魚」という答えが返って来た。バラマンディを狙うには釣り場まで の距離もあり、道具も高価なものが多いことから、なかなか敷居 が高い。一方で雷魚は水路や沼など水さえあればけっこうどこで も釣れたりする。「憧れのお嬢さまと、気だての良い近所のお姉 さん」というような関係だろうか。 今後の目標については、「メンバーがもっともっと増えて欲しいの はもちろん、釣り人1人1人のクオリティも上げていきたい」と語った。 「クオリティを上げる」というのは、ただ単に釣りの技術を上げるこ とだけではない。自分たちが遊ばせてもらっている自然の大切さ を理解し、環境を守る気持ちを持つ釣り人を育てることを意味して いる。 発足後にはさっそく、ホーチミン市近郊のドンナイ省で約40 人 が参加してキャッチ&リリースによる雷魚釣り大会を開催した。釣 った魚は小さくても持ち帰る、食べなくても死なせてしまうのが当 たり前のこの国で、「キャッチ&リリースのみ」の大会が開催され たこと自体、画期的な試みと言える。 100 年後にベトナムの釣り史を振り返ったとすれば、もしかしたら 2013 年は大きな転換点と考えられる年になるかもしれない。