今の若い人たちがルアーを始めるきっかけはブラックバスやアオリイ カが定番だが、1970 年代に始めた僕らオジさんの場合、最初の獲 物は雷魚だったりする。そう、ベトナムではしばしば料理にも登場する、 あのヌルっとしたヘビのような魚。まだブラックバスが限られた地域に しか生息せず、海のルアー釣りも未開拓な時代。釣り雑誌主催の「雷 魚ダービー」なるものが毎年開かれ、みな幻のメータークラスを狙って、 カエル型ルアーをヒシ藻が茂った水面を転がしたのだった。
雷魚がいると、付近の藻がモワーンと不自然に揺れるのですぐ分か る。カエル型ルアーの動きを止め、足を模したゴムが震えるよう微か にアクションを加える。バフっという補食音とともに、激しく割れる水面。 1 、2、3で大きく合わせ、あとはリールを、巻く、巻く。時には1メ ートル近い魚体を絡まった藻の固まりごと引っこ抜くので、竿は鉄筋の ように堅く、糸はローブのように太い。その道具に負けない身体作り のために、雷魚マンはシーズン中、腕立て伏せを毎日100 回欠かさ ない。いや、これは本当の話。そこまで釣り人をストイック、マニアッ クにする何か特別な魅力を、この魚は持っている。